秋葉山の天狗(2)

清水秋葉山の天狗の下駄
JAしみずが平成14年に編纂した『清水昔ばなし』という素晴らしい本にも秋葉山の天狗について書いてある。勝手ながら要約させていただくと、昔、龍爪山に住んでいた天狗は秋葉山との間を行き来しては、通行人に悪さをしていた。ある日、腕っぷしが強く勇ましい男が江尻村から庵原村に帰る夜道のこと、秋葉山に一団の妖しい火がぼうっとともっているのを見つけた。男は自分の腕に自信があり、天狗に出くわしたら取っ捕まえてやろう、出るなら出てきやがれなどと思っていたくらいなので、恐れることもなく火の正体を知ろうと見入った。するとたちまち火は衣を裂くような音を発して、龍爪山の方へと飛んでいった。翌朝男は、どこをどう歩いたのか、気の抜けたようになって家に戻っていたそうな。


似たような話を八坂町に住む杉山君から聞いた。杉山君の話を要約すると、先週末駅前銀座で忘年会があり、帰りはもうバスもないような時刻になってしまった。しょうがないタクシーにしようと思ったらタクシー乗り場には五千人ほどの行列ができている。でもって寒い中じっと待つことを嫌った杉山君はあきらめて家まで歩くことにした。歩いてればあったまるしね。大手町通りから北街道を左に折れ坂を上がっていくと秋葉山の上空に何やら炎のカタマリのようなものが見えた。なんだろうなんだろうって興味津々の杉山君はドキドキしながら秋葉山の中へ入っていった。すると、いつも火渡りをする所、護摩壇というのかな、そこで7人のおっさんがキャンプファイアーをしていた。なんだか楽しそうに歌ったり踊ったりしている。見ていたら自分も仲間に入りたくて堪らなくなった。なんていうか、雰囲気がなんとも和やかっていうか温かみがあって魅力的な気がした。杉山君が吸い込まれるように近付くと足音に気付いたおっさんのひとりが「いらっしゃーい」って桂三枝みたいな声で言った。他のおっさんも「ようこそようこそ」なんて歌いだして杉山君を歓迎しているようだった。インディアンのような恰好のおっさんが「ホントよく来てくれたなぁ、ほら、火に寄って、あったまってよ」とバーボンをついでくれた。「干し肉もあるよ。もちろん天狗印のね」ひゃ。杉山君はたいそう楽しい気分になり飲んで食って歌って踊ってはしゃぎまくった。翌朝杉山君は、どこをどう歩いたのか、気の抜けたようになって家に戻っていたそうな。...似たような話?どこがじゃ。


「その話、なんかこうオチとかはないの?」と杉山君に聞いてみる。
「すいません。つまらない話で」
「いやいや面白いよ。でも、けっきょくその7人のおっさんは天狗だったわけじゃないんだよね?」
「よくわかんないんです。でも、ビーフジャーキーはたしかに天狗でしたよ。テリヤキ味だったし」
うーむ。その酒宴、バーボンに干し肉、キャンプファイアー、オレも参加したいなぁって思った。

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